(5)人の気持ちが考えられるようになることインタビュアー:企業社会でも、自分のことで精一杯になっている人や、自分さえ良ければいいという人が多い。
出羽海親方:
みんなそうでしょう。他の人に気を配るような教育をされていないんだから。空気を読めないなんて言われるけれど、自分のコトしか考えられないんだよね。今、そういう教育をされてきてないんだから。起きたいときに起きて、寝たい時に寝る。食べたいときに食べ、食べたいものだけ食べる。そんな生活をしてきていれば、自分のことしか考えなくなるのは当たり前。
相撲部屋では、生活を共にしながら、人として、何を大事にしなければならないのか、そして人の気持ちがわかる人間を育てている。相撲というのは、昔からの日本の文化、生活そのものが凝縮されている世界だ。力士というのは、力(ちから)の武士という意味。
相撲界は古いとか最近取り沙汰されるけれど、やはり日本ならではの大事な部分というのは残していかなければいけないと思いますね。大都会では核家族化が進み、祖父母と一緒に暮らすことも少なくなったり、外で泥だらけになって大勢で遊んでいる子供の姿も見なくなった。出羽海親方がおっしゃるように、最近の若者はいろいろな人と接して、人の気持ちを考える機会が極端に減っているかもしれない。人と会って、楽しい気持ちになったり、時にはけんかをしたりして、この人はどういうことを考えているのかと感じとる経験が少なくなれば、人を思いやることはできないだろう。
自分さえよければいいという会社を、日本にはじめて進出してきたある外資系企業で味わったことがある。本社に承認された売上計画を早期に達成することが求められ、営業マンはいかに早く販売ルートを開拓するかが評価のすべてであった。そのため営業マン同士はお互いの情報を隠しあう。外出中に誰かに見られないように机の上の情報にも注意するような職場であった。そのような会社で皆が目標を共有して、実績を上げることはできるわけがなく、社員はコロコロ変わり、その会社は3年余りで日本から去っていった。
相撲部屋と同様に、社会集団では、人の気持ちを思いやって良好な人間関係を築くことが、仕事を進める上での礎となる。
アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 −12− 2008/07/02