トップアスリートたちの気持ちの切り替え

スポーツはイメージが大事だ。

 勝つためのイメージ、あるべき演技のイメージなど、そのイメージをどんな状況にあっても引き出すために、体に徹底的に覚えこませるための厳しい練習を行なっているともいえる。

 例えば、体操男子、あん馬で鹿島選手が落下した後でも、冨田選手はしっかり演技をまとめた。
 柔道の谷亮子選手が準決勝で敗れた後、3位決定戦までの間に気持ちを切り替えて一本勝ちした。

 いろいろな事象が同時に押し寄せてくるビジネスの場でも、いかに早く気持ちを切り替えて物事に集中していけるかによって、結果はおのずと異なってくるだろう。

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 −17− 2008/08/12


優しすぎた谷亮子選手

〜北京オリンピック柔道女子48kg級〜

 2008年北京オリンピックでオリンピック3連覇を目指した柔道の谷亮子選手は、銅メダルに終わった。オリンピックに5回連続出場し、世界選手権でも7勝と輝かしい成績を残している谷だが、今回の競技では全体を通して技の仕掛けが少なく、ついに準決勝で敗退してしまった。
 2005年に長男を出産され、子育てに忙しい中、世界レベルの柔道の練習もこなすという驚異的な精神力・体力をもつ彼女だが、母として優しく慈しむ気持ちを持ったアスリートにはオリンピックの金メダルは少し遠かったようだ。
 金メダルへの執着が足りなかったとは思わないが、以前に比べて“目の凄み”が少なかったように感じた。金メダルを取るには、谷は「優しくなりすぎた」ように見えた。

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 −16− 2008/08/11
タグ:谷亮子


出羽海親方のリーダーシップ哲学

(8)勝負するということ

出羽海親方へのインタビューの最後に、親方にとって「勝負」とは何かを伺った。

出羽海親方「勝たなくてはダメだけれど、その場限りの勝ちではダメだといつも教えている。
例え負けたとしても3年先、5年先につながる負け方をすること。見ている人が、負けてもよくやったと喜んでくれるような勝負をしなくてはいけない。負けて悔やまず、勝って奢らずの精神です。勝ち負けより、中身が大事です。立会いで飛んだり跳ねたり。
また、外国人の中には、勝てばいいという考えの相撲をとる者もいるが、それは違う。いかにお客様に満足して頂くか、負けてもお客様からよくやったと拍手を頂けるような取り組みが大事。勝敗はそれについてくる結果でしかない。
相撲は力士、力の武士の世界ですから、負け方にも潔さが必要です。」


出羽海親方の指導者としての勝負に対する考えは、意外にも「負け方」にあった。
もちろん勝負するからには勝たなくてはならない。しかし、成長するためにはどういう“失敗”を重ねるかだという。
相撲の世界でも、ビジネスの世界でも勝負に終わりはない。何気なく仕事をこなすのではなく、ひとつひとつの経験を糧とし、どうやったら上達するのか考え抜きながら、日々黙々と精進することが大切であるということを改めて学んだ。
糧と出来るかどうかは本人が意識をもって取り組んでいるかどうかにかかっている。“勝敗はプロセスの結果でしかない

インタビュー


アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 −15− 2008/07/18


出羽海親方のリーダーシップ哲学

(7)信念 〜感謝の気持ちと伝統を引き継ぐこと〜

インタビュアー:今の親方を支えているものは何ですか?

出羽海親方先輩から教わったものを守り、伝えていくこと。先輩を立て、上の人を立てる。上の人は後輩を育てる。今の自分があるのは、先輩のおかげ。ひとりで生きてきたわけではない。感謝の気持ちで次の時代に引き継ぐことである。
相撲は神事です。伝統を守るということは、本当に大変なことですよ。現状維持でまぁまぁ、何かあればすぐバッシングを受けるでしょう。
神様のいるこの土俵で、厳しい修行を耐え抜いた人達がいるからこそ、この伝統を守ることができるのです。そして、今の若者はダメだと言っているだけではいけない。立派に指導できる次の指導者を育てなければいけないんです。


インタビュアー:その重圧は相当なものではないですか?

出羽海親方親方という重責から逃げてしまった方が楽かもしれないが、自分は縦社会の良さも知っている。
苦労を苦労と思ったらダメ、苦労にどう立ち向かっていくか。自分が立ち向かうことができないと感じた時は、いさぎよく後身に譲り、まかせようと思っている。また跡継ぎを育てることも大事ですよ。
こういうことは、あくまで理想かもしれません。でも一進一退で進んでいくしかありません。
自分がフラフラ迷ってしまったら、自分を信じてきてくれている皆が迷ってしまいます。自分は道しるべを示してあげる。マイナス思考ではなくあくまで、プラス思考で考えることが大事です。


今の自分を支えてくれている全てのものに感謝して、やらなければならないことを愚直に追い求める。トップは皆の先頭で方向を指し示し、決して逃げないこと。立ち向かえないときが来たら潔く身を引く気持ちで勝負する。そして後継者を育てることもトップの仕事である。
出羽海親方のこれらのお話には、リーダーシップ哲学が凝縮されている。

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 −14− 2008/07/12


出羽海親方のリーダーシップ哲学

(6)しっかりやっている人を評価してやる

「例えば、外国人力士が頑張っていることを評価することも大事だと思うよ。
言葉は日本語だけしか使えない。会見にしても、通訳をつけず、全て自分の言葉でしゃべっている。日本の文化を受入れて頑張っていますよ。食事だって、相撲部屋ではちゃんこしかない、洋食はない。ちょんまげを結って、着物を着て、草履もはかなければならない。相撲をするなら有無をも言えないしきたりです。
各相撲部屋に一人しか受入れられない、そんな中で孤軍奮闘して頑張っている彼らを認めてあげることは大切ですよ。」


海外で生活したことのある方なら感じたことがあると思うが、
違う文化を受入れるというのは大変なことだ。しかも相撲文化は、日本でも特別な伝統を受継ぐ世界である。そんな中で頑張っている外国人力士のことを、出羽海親方は認めていらした。

頑張っているか、一生懸命やっているかは、人を見ていればすぐわかること。
トップは、しっかりやっている人をきちんと評価できなくてはならないし、企業においてはそういう仕組みを整えることも必要であろう。

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 −13− 2008/07/11


出羽海親方のリーダーシップ哲学

(5)人の気持ちが考えられるようになること

インタビュアー:企業社会でも、自分のことで精一杯になっている人や、自分さえ良ければいいという人が多い。

出羽海親方みんなそうでしょう。他の人に気を配るような教育をされていないんだから。空気を読めないなんて言われるけれど、自分のコトしか考えられないんだよね。今、そういう教育をされてきてないんだから。起きたいときに起きて、寝たい時に寝る。食べたいときに食べ、食べたいものだけ食べる。そんな生活をしてきていれば、自分のことしか考えなくなるのは当たり前。

相撲部屋では、生活を共にしながら、人として、何を大事にしなければならないのか、そして人の気持ちがわかる人間を育てている。相撲というのは、昔からの日本の文化、生活そのものが凝縮されている世界だ。力士というのは、力(ちから)の武士という意味。

相撲界は古いとか最近取り沙汰されるけれど、やはり日本ならではの大事な部分というのは残していかなければいけないと思いますね。



大都会では核家族化が進み、祖父母と一緒に暮らすことも少なくなったり、外で泥だらけになって大勢で遊んでいる子供の姿も見なくなった。出羽海親方がおっしゃるように、最近の若者はいろいろな人と接して、人の気持ちを考える機会が極端に減っているかもしれない。人と会って、楽しい気持ちになったり、時にはけんかをしたりして、この人はどういうことを考えているのかと感じとる経験が少なくなれば、人を思いやることはできないだろう。

自分さえよければいいという会社を、日本にはじめて進出してきたある外資系企業で味わったことがある。本社に承認された売上計画を早期に達成することが求められ、営業マンはいかに早く販売ルートを開拓するかが評価のすべてであった。そのため営業マン同士はお互いの情報を隠しあう。外出中に誰かに見られないように机の上の情報にも注意するような職場であった。そのような会社で皆が目標を共有して、実績を上げることはできるわけがなく、社員はコロコロ変わり、その会社は3年余りで日本から去っていった。

 相撲部屋と同様に、社会集団では、人の気持ちを思いやって良好な人間関係を築くことが、仕事を進める上での礎となる。

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 −12− 2008/07/02


出羽海親方のリーダーシップ哲学

(4)信頼関係とコミュニケーション その2 気配り

インタビュアー:若い人には、やはり親方から声をかけられるのですか?

出羽海親方まずこちらから語らないと若い方からは話をしづらいよね。
私は父であり、師匠であり、兄貴分でないといけないと思っている。

インタビュアー:こちらが語りかけても返ってこない場合もあるのでは・・・。

出羽海親方親が子をみるのと一緒で、顔を見ればわかるでしょ。一緒に暮らしていれば分かるようになるんですよ。
皆の前では言えない子も、個別に自分の部屋に呼ぶとぽつぽつと話し始める子もいるし、自分には話せなくても、別の先輩になら話す子もいる。そういう子には下の者に、お前、あいつの話を聞いてやれと言うこともある。自分が直接話さなくても、ひたすらその子に働きかける。
一人ひとりにあった気配りが大切。この気配りは媚びるのとは違う。
「師匠は、俺のことを考えてくれている」という信頼関係ができていれば、必ずなんらかの糸口は見つかるはず。

一人ひとりの個性に合わせて、コミュニケーションの方法を変え、ひたすらトップから働きかける。それが強い結束力を生み出す要因の一つであることは、間違いない。

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 -11- 2008/06/28


出羽海親方のリーダーシップ哲学

(3)信頼関係とコミュニケーション その1 心の交流

 厳しい縦社会の中で、心と技を鍛える相撲界。苦しいときでも師匠にボールを投げ返せる人を育てるには、出羽海親方は何をされているのだろうか?

「日々のコミュニケーションを大事にしている。こちらから話しかけてやる。朝、顔を見れば顔つきで分かる。『今日はどうだ?』とか一声掛けてやる。『顔色がいいな』とか、『顔色が悪いな、調子が悪いのか?』とか、個々の顔をきちんと見て、ちゃんと声をかけていくことが大切。

自分を信頼してきてくれているのだから、一言一言声をかける。

稽古は苦しいし、教えるほうは厳しくなくちゃいけない。そこで心の交流がきちんとできていれば、しごきじゃなくて愛のむちになる。言い方は悪いかもしれないけれど、セクハラと同じ。好きな人から触られたらセクハラにならないけれど、嫌いな人から触られたらセクハラになるでしょ。
メールで挨拶したりしているようでは心は通わない。」


最近は“叱られる”経験も少なくなっているし、“叱る”人も少なくなっているように思える。
中小企業では人材不足のために従業員にはやめて欲しくない。ちょっとでも厳しいことを言えば、最近の子はすぐ辞めてしまうので、言いたいことも言えない風潮があるそうだ。特に業績の悪い会社でよく聞く。

ちょっと待って欲しい。
人が辞めたら仕事が忙しくなるとか、人の回転が早いから教育する必要はないとか、自分の都合ばかり考えていないだろうか?
そう言う前に、従業員にとって魅力ある会社(中間管理職の方であれば、自分の課や部)にする方策を考え、何か実行していますか?

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 -10- 2008/06/27


出羽海親方のリーダーシップ哲学

(2)順応する、そして人として成長する。


相撲部屋では、稽古だけではなく共同生活が基本である。共同生活で人を育てる、今の日本では数少ない場となっている。そこで強くなっていく人はどんな人なのだろうか?

「部屋にはプライバシーっていうものがほとんど無いでしょう。

赤の他人が寝ているところで寝られるか。スッと入ってこれる子もいれば、できない子もいる。
順応できない子は、1年もしないで相談してくるよね。『社会に出たら、どこかでふんばらなければいけない、ここでできなければ、どこへ行ってもうまくいかないぞ』ということを言い聞かせる。それでも、辞める子は辞め、一度ふるいにかけられる。
相撲社会に入ってからイキイキする子もいれば、情熱を持って入ってきても、挫折してしまう子もいる。大勢の人の中で、人間関係をいかにうまく築くかどうかが大事なこと。強くなっていくかどうかは、その次。

相撲のような縦社会は、今の日本ではほとんど経験できないでしょう。その縦社会をまず理解して、適応していくことが大事だよね。先輩に給仕したり、先輩の背を流したり、自分のことはすべて自分でやる。寝床から食事からすべて・・・。家に帰るとご両親はびっくりされる方も多いと聞きますよ。

強くなる前に、まず人間として成長することが大事だよね。」


相撲社会に入れば、生活の仕方ががらりと変わる。その環境にどれだけ順応できるかにその後の相撲人生がかかっているといえる。

企業社会でも、社内外の環境はめまぐるしく変わることが多い。外部環境の変化は追い風となることもあるし、向かい風となる時もある。

そして、転勤や配置転換で仕事も変われば、人間関係も変わっていく。企業人は、自分の意思にかかわらず、自分を取り巻く環境がめまぐるしく変わっていくのだ。

そこでやる気を失って、自分の身を嘆いたり、人のせいにしたりしていては、その後の勝負にならない。

アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 -9- 2008/06/24



出羽海親方のリーダーシップ哲学

(1)自分から欲する。まずは気持ち。


相撲という厳しい勝負の世界で生き残っていくために、力士には何が必要なのだろうか?


「今は一人っ子の時代。昔と違い、食事をするにも、自分から取りにいかなくても無くならないし、もし無くなっても親がまた出してくれる。
競争する必要が無い環境で育っている子が多い。そういう子を教育するのは時間がかかる。
だから、『なぜ、自分から取りに行かなくてはならないのか?“自ら欲する”ということの大切さ』を日々言い聞かせている。
まずは気持ち。技っていうのは二の次だ。本人にどれだけやる気があるかどうか。そしてそのやる気をどれだけ引き出すかが指導者としての役割だと思う。
こちらが投げたボールを自分に投げ返してくる気力があるかどうか。ボールをよけたり、よそへ投げ返したり、落とすようではだめだ。」



出羽海親方は、育成方針についてこのように語られた。自ら何かを掴み取ろうとする強い気持ちが力士を育てるということであろう。
「勝ちたい」「強くなりたい」「あいつより強くなりたい」「これを乗り越えたい」、なんでもいい、自分が掴み取りたい何かがあるか、そしてどれだけ強く思っているかどうかが相撲社会で生き残っていくために必要なようだ。その強い思いを引き出し、正面から受け止め、支えていくのが親方の仕事。

企業社会でも同じではないだろうか?

部下は本当に必死に何かを欲しているか?もしそうではないのなら、上司はそれを引き出す努力をしているか?リーダーは、部下の“やってやるという気持ち”を醸成していかなくてはならない。

 アスリートに学ぶ情熱の燃やし方 -8- 2008/06/23




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